· 

令和7年、社会保険適用拡大の行方

少子高齢社会やインフレの進展、企業を取り巻く人手不足の常態化により、社会保険制度は変更を余儀なくされています。

 

人手不足の対策として、外国人の労働力にスポットがあてられてきましたが、やはり、本命は女性や高齢者の労働力の活用でしょう。昨今の社会保険制度の見直しはこの文脈のなかにあると言えます。つまり、いかにして、働く主婦の数を増やし、あるいは、主婦の働く時間を増やしていくか。いかにして、定年等でリタイヤする高齢者の数を減らし、いかにして高齢者の労働時間を維持するか。

 

広義の意味で社会保険には、労災保険、雇用保険、健康保険、介護保険、年金保険がありますが、ここでは法人や従業員5人以上の個人事業で働く人に適用される健康保険、介護保険、厚生年金保険に限定して話を進めていきます。狭義の意味の社会保険についてです。

 

社会保険の加入条件を考える上で重要なことは、一定の要件に該当する場合、加入は義務だという点です。例え経営者や従業員の方が社会保険に加入しないことで同意したとしても、一定の条件に該当すれば加入は義務となります。

 

加入義務は、まず事業所単位で発生し、次にその事業所で働く人の勤務条件により、働く人ごとに決まってきます。

 

加入義務のある事業所は次の通りです。

  • 法人である事業所
  • 常時5人以上の従業員がいる事業所

次に加入義務のある働く人の勤務条件についてです。

  1. 常勤の役員(個人事業主は社会保険に加入できません)
  2. フルタイムで働く従業員
  3. 1週間の所定労働時間及び1月の所定労働日数がフルタイム従業員の4分の3以上の従業員

加入喪失の時期について、社会保険を構成する健康保険、介護保険、厚生年金保険を個別にみていくと年齢で微妙に異なりますので整理しておきます。

 

  1. 健康保険=入社月から75歳の誕生日月の前月まで
  2. 介護保険=40歳の誕生日月から65歳の誕生日月の前月まで
  3. 厚生年金保険=入社月から70歳の誕生日月の前月まで

 

さて、これからが本題です。

 

平成28年(2016年)10月より従業員数501人以上の企業について新たな条件が追加されました。この場合の従業員数とは厚生年金被保険者数を指します。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 所定内賃金が8.8万円以上
  3. 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  4. 学生でない

週の労働時間については、契約上の所定労働時間のことであり、臨時に生じた残業時間は含まれません。ただし、残業時間を含む実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、それ以降も続く見込みの場合は、3か月目から加入対象となります。

 

所定内賃金とは、基本給と一定の手当のことで、賞与、割増賃金、通勤手当、精皆勤手当、家族手当は含みません。

 

 

この新たな条件は、令和2年(2022年)10月から従業員数101人以上500人以下の企業に適用され、令和6年(2024年)10月から従業員数51人以上100人以下の企業も対象となりました。

 

この社会保険適用拡大は、要件に所定内賃金88,000円があり、これを年収に直すと105万円6千円であることから、「年収106万円の壁」対策と言われています。

 

令和6年12月10日、厚生労働省社会保障審議会(年金部会)で次のことが了承され、さらに、令和7年1月29日修正案が提示されました。令和7年1月24日に開会された通常国会に提出の予定です。

 

  • 賃金要件は令和8年(2026年)10月に撤廃
  • 企業規模要件は令和9年(2027年)10月に36人以上に変更
  • 企業規模要件は令和11年(2029年)10月に21人以上に変更
  • 企業規模要件は令和14年(2032年)10月に11人以上に変更
  • 企業規模要件は令和17年(2035年)に廃止

企業規模要件は令和24年10月より従業員数51人以上となっておりますが、36人以上、21人以上、11人以上と随時変更され、令和17年10月に廃止の予定です。企業規模要件以外は次の通りです。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  3. 学生でない