令和3年6月9日に、議員立法により成立し、同月16日に公布されました。(施行日は、一部の規程を除き、法の公布の日から1年以内で政令で定める日となっています。)
この法律は、石綿にさらされる建設業務に従事した労働者等が石綿を吸入することにより発生する疾病にかかり、精神上の苦痛を受けたことに係る最高裁判決等(※)において国の責任が認められたことに鑑み、これらの判決において国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図るため、給付金等の支給について定められたものとなっています。
(※最高裁判所平成30年(受)第1451号、第1452号令和3年5月17日第一小法廷判決、
最高裁判所平成31年(受)第495号令和3年5月17日第一小法廷判決、
大阪高等裁判所平成28年(ネ)第987号平成30年8月31日第四民事部判決)
★また、この給付金等の支給の請求に関して、申請書等の作成業務を社労士が行うことができるようになります。
●「対象者」
下記の①~③の要件を満たす方が対象です。
① 「特定石綿ばく露建設業務」=「日本国内において行われた石綿にさらされる建設
業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の
作業若しくはこれらの作業の準備の作業に係わる業務又はこれらに付随する業務)」に
一定期間従事している。
期間 | 業務 |
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日 | 石綿の吹付け作業に係る業務 |
昭和50年10月1日~平成16年9月30日 |
一定の屋内作業場で行われた作業に係る業務 |
② 石綿関連疾病にかかった
石綿を吸入することにより発生する次に掲げる疾病のことです。
(1)中皮腫
(2)気管支又は肺の悪性新生物(肺がん)
(3)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
(4)石綿肺(じん肺管理区分が2~4又はこれに相当する者)
(5)良性石綿胸水
③ 「特定石綿被害建設業務労働者等」=次に掲げる者であって特定石綿ばく露建設業
務に従事することにより石綿関連疾病にかかったものです。
(1)労働者基準法第九条に規定する労働者(※労働者)
(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く)
(2)厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主(中小事業主)
(3)中小事業主が行う事業に従事する者(労働者を除く、家族従事者等)
(4)労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者(一人親方)
(5)一人親方が行う事業に従事する者(労働者を除く、家族従事者等)
●「給付金の支給額」
区分 |
給付金額 |
① 石綿肺管理区分が管理2で指定合併症にかかっていない者 |
550万円 |
② 石綿肺管理区分が管理2で指定合併症にかかった者 | 700万円 |
③ 石綿肺管理区分が管理3で指定合併症にかかっていない者 | 800万円 |
④ 石綿肺管理区分が管理3で指定合併症にかかった者 | 950万円 |
⑤ 中皮腫、肺がん、 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、 石綿肺にかかった者(石綿肺管理区分が管理4である者又は これに相当する者に限る。) 良性石綿胸水にかかった者 |
1,150万円 |
⑥ 上記①、③により死亡した者 |
1,200万円 |
⑦ 上記②、④、⑤により死亡した者 | 1,300万円 |
給付金の支給後症状が悪化した方に対しては、追加給付金(上記の表の区分における差額
分)が支給されます。
※特定石綿被害建設業務労働者等であって、特定石綿ばく露建設業務に従事した期間が、
石綿関連疾病に応じて、それぞれ下記の表の期間を下回るものについては、1割減額され
ます。
石綿関連疾病 | 期間 |
肺がん又は石綿肺 | 10年 |
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 | 3年 |
中皮腫又は良性石綿胸水 | 1年 |
※特定石綿被害建設業務労働者等で、肺がんにかかった者について、喫煙の習慣を有した
者についてはさらに1割の減額となります。
●「請求期限」
①石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断
②石綿肺に係るじん肺法の規定によるじん肺区分の決定(じん肺管理区分が管理2、3又
は管理4と決定された者に係る決定に限る)があった日
③石綿関連疾病により死亡した時は、死亡した日
から起算して20年を経過したときは請求する事ができません。
●「請求者」
①特定石綿被害建設業務労働者等本人
②特定石綿被害建設業務労働者本人が死亡したときは、その者の遺族(自己の名で請求
可能)
※配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情ににあった者を含む、子、父母、孫、祖父
母、兄弟姉妹)
●「給付金を受けるには」
給付金を受けようとする者は、厚生労働大臣に請求し、当該支給を受ける権利の認定
を受けなければなりません。
給付金等の支払いに関する事務は、独立行政法人労働者健康安全機構に委託されま
す。
請求手続きの詳細は、今後厚生労働省ホームページ等で公表されます。
●「審査について」
認定に係る審査は、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会が行います。
以下が審査されます。
①請求者(請求者が遺族の場合は、当該請求に係る死亡した者。)が特定石綿ばく露
建設業務に従事した期間
②請求者がかかった石綿関連疾病の種類
③請求者が特定石綿ばく露建設業務に従事したことと石綿関連疾病にかかったこと
の関係
④請求に係る請求者の喫煙の習慣の有無
●「給付金等の支給開始日」
法の公布の日から1年以内で、政令で定める日からとなります。
開始日は、決まり次第、厚生労働省ホームページ等で公表されます。
●「給付金と労災認定」
給付金の支給対象となる労働者等は、労災認定による療養補償給付や休業補償給付
などが受けられるため、労災認定の対象をなり得る方は労災の請求も検討してみて下さ
い。
あらかじめ労災認定を受けることは、給付金請求の要件とはされていません。